「ボンゴレの魔力」

mirage01 古(いにしえ)の言い伝え
蜃気楼は 「蜃(しん)」 すなわち
砂地に棲む大蛤(おおはまぐり)
その吐く 「気」 にて 空中に
現出した まぼろしの楼閣
その魔力は 船乗りたちを幻惑し
目くるめく禁断の海域へと誘う…

 

シーフード好きの日本人からすればアサリとハマグリは大違い(値段の差では、とてつもなく別の貝) でも両者を区別しない文化圏もある。 ただ単に「貝」 ( shellfish ) である。 そもそも貝を「フィッシュ」呼ばわりする無神経さが許せない、のだがこれはしょうがないので先に進む。

貝の旨味は殻からも出るので 「調理は殻ごと」。 加熱により身の水分が出てくるが、この水分こそ凝縮された旨味のエッセンス。 出た水分をいかに逃がさない、あるいは、そもそも水分を出さない加熱法を。 この意味では、古来の「酒蒸し」は理にかなっている。 ボンゴレ・ビアンコ、実はこの「酒蒸し」を根幹に据え、貝の味を極限まで引き出し、それを喰うために存在するパスタなのだ。

asari150市販のアサリには砂抜き処理済みのものもある。 そうでない場合は砂抜きをする。 直径30cmのボウルに一杯の水は約2リットル、これに50グラムの塩。 結構な量でなめると辛い。 ザルにいれたアサリを塩水のボウルに沈め、風呂場や玄関先など暗くて静かな場所にそっと置く。 連中は、人が居ないと安心して2本の水管を殻の外ににゅーっと出してリラックスしているが、ふいに振動を与えると、大慌てで水管をたぐり込み、貝を閉じる。 この間コンマ1秒以下。 でも、おっちょこちょいの奴は、自分の殻で水管をはさみ込んで傷つき、死んでしまう。 だから砂抜き中のアサリに触る時には細心の注意が必要だ。 『あの~、ちょっと済みませ~ん えっとぉ~、さわっていいですかぁ~』 少しずつ刺激をあたえつつ、奴らがゆっくりと回避態勢に入れるよう気を遣ってやることだ。

これって、何かに似ていると思っていたら、オフィスでボケーっと(仕事に無関係な)ネット画面を見ている奴に声をかける場面と同じなので笑える。 ふしぎなもので、仕事の画面を見ている時と、ボケーっとろくでもないサイトを見ているときの顔とはまったく違う。 スクリーンが見えなくてもすぐわかる。 そういう人のところに行って突然モニターをのぞき込み 『あれれ~、何見てんすかぁ?(^^)』 などと言うのは止めましょう。 あなたは確実に嫌われます…

2~3時間経ったらザルを引き上げ、流水の下で殻どうしをこすり合わせよごれを落とす。 プロは左右の手にひとつずつ貝をとり、コチコチと打ちつけて、音と手に伝わる振動で「死に貝」を除去する。 ここでパスタをゆではじめる。 今回は1.6ミリのスパゲッティーニ。 ディ・チェコの1.6ミリだと指定のゆで時間は9分。 後の工程で再加熱するので、今回はゆで時間を短めの7分30秒にセットする。

asari150x150ナベはアサリが重ならず一様に広がる大きさがあってフタができるものを…というと自然にフライパンとなる。 ニンニク1カケを包丁の腹でつぶし、赤トウガラシ1本を4つにちぎったものとともにEVオリーブオイルのなかで低温加熱、ガーリックにトースト程度の色がついたら強火にして貝を入れ、白ワインをアサリが高さの半分つかる程そそぎ、すぐにフタをする。 煮過ぎは禁物。 最後まで口を開けないやつは「死に貝」なので取り除く。

 

パスタは貝のナベでさらに加熱するので、麺のゆで加減は見なくていい。 パスタのゆで汁をお玉一杯、貝のナベに加えて全体Asari03をなじませる。 時間になったらパスタを貝のナベに投入、火のうえで軽く再加熱しながらひたすら「あおって」なじませる。 茹で上がりのパスタは、デンプン質がお湯に溶け出した跡の穴がいっぱい空いたスポンジのような状態。 ここに貝のうまみいっぱいのソースを吸い込ませる。 仕上げはイタリアン・パセリ(生)のみじん切り(あさつき、あるいは万能ネギでも)をちらして、EVOを回しかけて完成。

余熱でパスタが劣化するので食卓へ急ぐ。
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